近代中国の父。五・四運動の中心的人物にして共産党の創始者に迫る
陳独秀―反骨の志士、近代中国の先導者 (世界史リブレット人)
陳独秀に再評価の時代が来ている。 日本の高校世界史でも陳独秀は『新青年』とセットにされるだけで、その後中国共産党結成で触れられる程度である。 中国共産党についてはすぐに毛沢東に叙述の中心が移ってしまう。 入試問題では魯迅や孫文、毛沢東の正誤問題での引っかけ選択肢として使われることも多く、いまいち中国近代史の主役としての印象は薄い。
しかし近年は五・四運動の中国近代史上における再評価の流れとともに、運動の理論的指導者として陳独秀に改めてフォーカスが当てられ、近現代中国の国家形成に少なからぬ足跡を残し、中国史上初の大規模な労働運動組織を作ってその中心に中共を据えることで中国共産革命の礎を築いたことも思い出されてきた。
現代中国史の正統ともいえる孫文・魯迅・毛沢東の系列とは終始離れずとも一致せず、最終的に異なる途を歩んだためにその業績は過度に無視されてきた。
本書はそうした中国史の隠れた巨人陳独秀の編集者としての始まりから政治運動家、トロツキスト、孤独な晩年にいたるまで丁寧に叙述している。 毛沢東が農村の革命家だったとすれば、陳独秀はまさに中国都市社会の革命家であったが、彼はそれ故に広大な農業社会であった近代中国の歴史で埋没していったのかも知れない。 だが内陸部に至るまで都市化していく社会を迎えた変容しつつある現代中国にとって、彼は意味のある思想と社会運動の在り方を提供してくれる可能性がある。
この魅力的な忘れられた巨人は、巨大化した現代中国の民主化という課題の前に今再び輝こうとしている。
陳独秀―反骨の志士、近代中国の先導者 (世界史リブレット人)